本記事では、東京海上・円資産バランスファンド(円奏会)について銘柄分析をおこなっています。
『東京海上・円資産バランスファンド』は東京海上アセットマネジメントが提供する、日本国内の債券・株式・REITに分散投資を行うバランスファンドです。
国内の証券にのみ投資を行うため為替リスクもなく、複数の資産に投資を行うバランスファンドですが主軸を国内債券としているため非常にボラティリティ(値動き)の小さく、銀行等では投資初心者に勧められる投資信託となっています
国内債券メインのバランスファンド

『東京海上・円資産バランスファンド』の大きなポイントは、投資金全体のうち、70%は国内債券に投資をするということです。この比率は如何なる相場であっても変更されることはないため、非常に基準価額の変動が小さい投資信託となります。残りの30%を国内株式(高配当低ボラティリティ)とREITに15%ずつの配分を基本てして運用します。
この債券70%、株式15%、REIT15%の配分比率は、相場の変動や状況に応じて運用会社が適宜判断し調整することができるものとしています。相場が不安定な場合は、最大で株式2.5%、REIT2.5%まで引き下げられるとしています。その場合残りの比率は短期金融資産(ほとんど現金に近い性質の資産)に配分されることになります。
問題点:主軸の国内債権では利益を生み出せない

『東京海上・円資産バランスファンド』は国内債券に資金の70%という、大半を注ぎ込んで運用しますが、実際問題として、現在の国内債券の利回りでは利益を生み出す力は無いと言えます。
5月末の月報を読んでみると、円建て投資適格債券マザーファンドの運用状況が掲載されていますが、月報によるとこの債券ファンドの直接利回り(購入価格と額面価格の差分は考慮せず、単年度で見た場合の利回り)は0.71%、最終利回り(債券を購入して償還まで保有した場合の利回り)は0.33%です。
簡単に言えば、70%投資するメインの債券ファンドは、1年に約0.71%の利益しか産んでくれないということです。
債券ファンドの利回りでは信託報酬をカバーできない!
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ここで問題となってくるのが、信託報酬です。信託報酬とはファンドに関わる運用会社、販売会社、信託銀行に保有中は継続的に支払う手数料です。日々発表される基準価額はこの信託報酬文を差し引いて算出するので感じづらいものですが、間違いなく取られているものです。
さて、この『東京海上・円資産バランスファンド』の信託報酬は年間で0.924%です。もうお分かりでしょうか。メインの投資先である債券ファンドの運用利回りは約0.71%なので、信託報酬よりも低いのです。
利益0.71% − 手数料0.924% = −0.214%
『東京海上・円資産バランスファンド』に投資をしている投資家の皆様は、預けている大半の資金で金融機関の手数料を稼いでいるようなものです。果たしてこれで納得いくのでしょうか。
結局、『株式』と『REIT』が収益源となっている
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前述したように、『東京海上・円資産バランスファンド』の債券部分は、あくまで基準価額の値動きを抑えることと、しっかりと信託報酬分の稼いでくれるために運用されているわけです。投資家はこの商品で利益を出すには、株式とREITが値上がりしてくれなければいけないわけです。
高配当低ボラティリティファンドは値上がりしづらい

さて、株式の運用はどうかというと、実はこの株式運用もあまり芳しくありません。そもそもこの株式運用については、名前の通り値動きが小さく、配当金が多い企業に投資をしますという運用目的で投資が行われています。
メインの債券運用も値動きがあまりないのですが、株式運用もあまり値動きがないように設計されているのです。とにかく基準価額の変動を抑えることに集中している運用、その確固たる信念には感服します。
ただ問題なのは、それゆえ株式ファンドの基準価額が全然値上がりできていないのです。コロナ禍による2020年前半の大きな下落も回復していませんが、そもそも2018年の米中貿易懸念の頃から弱い動きを続けています。
日経平均株価と比較してみれば一目瞭然ですが、あまりにパフォーマンスが悪いです。値動きをしないような運用を心がけていますが、普通に下落しますし、戻りも遅いです。果たしてこれで将来的な利益が見込めるのでしょうか。
まともに運用できているのはREITくらいか
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REIT運用については、特に制限されているわけではありません。東京証券取引所に上場しているREIT証券は2020年12月時点で62銘柄で、そのうち49銘柄に投資を行なっているようなのでほとんど東証REITに連動していると考え差し支えないでしょう。
アクティブファンドとしてはどうなのかと思いますが、他の2つの運用状況を見る限りでは相対的にまともな運用に思えてしまいます。
そもそも国内債券に投資する必要性が無い
『東京海上・円資産バランスファンド』が国内債券を主軸に投資を行う理由は、基準価額の安定にあります。投資初心者向けを謳うこのファンドは、投資による価格変動によるハラハラやドキドキ感を極力抑えるために、最も値動きの小さい国内債券に70%の投資を行うことでリスクを抑えています。
ですが、2016年に日本銀行で行われたマイナス金利の導入から日本国債の利回りは最低レベルを超え一時的にはマイナス入りをしたほど低下しました。その影響から社債の利回りも低下してしまい、前述したようにもはや利回りでは信託報酬さえカバー出来なくなってしまいました。
このファンドに投資をする投資家の方々は、メインの投資先である国内債券を通じてただ金融機関の信託報酬を稼いでいるだけに過ぎず、それだけでは顧客の資産を増やすという目的はかないません。株式やREITの力が必要になるなら、結局のところ株式やREITに直接投資をした方が余計な手数料を払わずに済むのです。
金融資産の価格変動を嫌うのであれば、わざわざ手数料を払って国内債券に投資などせず、現金で持っていればいいのです。現金と株式やREITの組み合わせでも結果的には同じことのはずです。なぜわざわざコストを払って無駄な運用をする必要があるのでしょうか。
まとめ:東京海上・円資産バランスファンドへ投資する必要はない
当ファンドは、特に銀行の営業マンが投資知識や経験が浅い顧客に対し、投資の入門用として提案することが多い商品です。確かに国内債券がメインとなるため、値動きはかなり限定されます。ですが2020年2月のコロナ禍の下落時、先行きの見えない未曾有の危機と不安感が大きく募り、株式だけでなく、債券や金すらも売却されました。
東京海上・円資産バランスファンドはその後株式やREITの比率を最小限にまで引き下げましたが、その影響でその後の株価の大きな反発の波に置いていかれることになりました。結果的にアメリカ大統領選挙まで比率をそのままにしたため基準価額は横ばいを続け、2021年7月時点でもまだ下落前まで戻っていない状態です。
このファンドは、リスクを抑える名目で既に利回りのでない国内債券を中心に投資したものの、コロナ禍の下落に巻き込まれいまだに損失の回復に至っていない投資信託です。リスクの割りにリターンの期待ができないという点ではとても初心者向けとは思えません。
そもそも投資を行うのに初心者向けだとか経験者向けなんてものはありません。運用には常にリスクがあり、そのリスクをどれだけ許容できるかが問題です。当ファンドはリスクを極力抑えるという仕組みを売りにしていましたが、結果的にリスクを抑えらませんでした。
よって、このファンドは投資に値しない投資信託であると言えます。金融機関の営業マンにこの商品を提案された場合は、しっかりと話を聞いて納得してから購入するようにしてください。