保険商品の中には死亡保証や資産形成以外にも、暦年贈与に適した保険があります。その中の一つである三井住友プライマリー生命の「やさしさ、つなぐ」は約111社の金融機関で窓口販売されており、また顧客層に高齢者が多い銀行にとっては資産形成型保険よりも売りやすい商品と言えます。

この「やさしさ、つなぐ」は販売開始から数度契約条件の見直しをしており、少しづつ顧客にメリットが出やすいようになっていることから同社のしあわせ、ずっと2と比べると幾分か経済合理性のあるまともな商品と言えます。この商品のメリットとデメリットを紹介していきましょう。
贈与契約書の作成をする手間なく暦年贈与ができる
暦年贈与というのは、毎年110万円までお金をプレゼントしても税金はかかりませんよ、という物です。通常人にお金をあげると、贈与税というものがかかるのですが、年間110万円まではそれがかからないのです。
高齢者である程度の資産がある人の場合、万が一があった際には資産は相続税の対象になってしまいます。ですので生きている間に少しでも資産を減らしておいて相続税を抑えようと考えるわけですね。毎年一人当たり110万円ずつ減らしていけるのでかなり資産圧縮に繋がるのです。
しかしこの贈与には色々と制限があります。贈与には贈与する側とされる側の意思確認が記録として残してある必要があります。これは贈与契約書というものを作成して残しておくのですが、これは司法書士などに依頼して作成してもらえるのですが、数万円の手数料がかかってしまいます。
この贈与契約書の作成を保険会社が代わりに代行するというサービスなので、この点のメリットは大きいと言えます。
外貨建てにすることで高金利を享受できる
外貨建て保険の真骨頂である売り文句ですね、日本円で渡していくよりも金利が高いので、その分増やして残せるか可能性があります。ここ重要です、あくまで可能性です。海外の通貨に両替するということは、為替レートによっては円に戻す時に為替差損を被って損失する可能性があります。
外貨建てでお金を渡す際、為替で110万円を超えない設定ができる。
外貨建てて運用した場合、毎年決まった外貨で受取人に渡すことになります。その際には円に両替するので為替レートによって円換算額は変わっていきます。為替次第では110万円を超えてしまう可能性がある場合、それ以上になった時には自動的に受取人には110万円までしか渡さないように設定することができます。
もしも為替レートが円安に傾いて多くの日本円が戻ってくる場合、110万円までを贈与して、残りは自分で受け取るか、次回に繰り越すかを決めることができます。気をつけなくてはいけないのは自分に戻す場合、雑所得になってしまうことです。
この保険を契約する人はあくまで家族に贈与することが目的で契約することになるでしょうから、余った分を自分に戻すということはしないと思いますが、所得区分には気をつけてください。
次にデメリットをご紹介しましょう。
日本円よりは高金利だが、類似外貨建て保険よりも利率が低い。
この商品、運用年数や最終的にどれくらい贈与するかは選択することになっているのですが、いずれにせよ利回りが低いのです。例えば2019年12月30日からの10年アメリカドルでの適用積立利回りは、同社の「しあわせ、ずっと」が1.65%に対し「やさしさ、つなぐ」は預けたお金を全て贈与する契約にした場合は0.15%です。
この保険は毎年贈与していくわけですが、最終的に全てのお金を贈与して契約を消滅させるか、ある程度は残して死亡保険に充てるかを選択することになっています。利便性や目的を考えれば基本的には全て贈与した方が都合が良いはずですが、その契約にしようとすると利回りが大きく変消します。5回分のお金を最後まで保険に残しておくという契約にしても利回りは0.52%です。
この利回りの低さは明らかであり、この利率では為替のリスクの方が高いのではないかと疑問を抱かざるを得ないレベルです。受け渡し年数を20年にして、その上で10回分を保険に残す条件にしても0.64%です。あまりにも低いとしか言えないでしょう。
そもそも外貨建てで運用する意味があるのか?
外貨建て保険全てに言える根本的な疑問になってしまいますが、そもそも贈与契約をするのにいちいち手数料を払って海外の通貨に両替する必要があるのかが疑問です。確かに日本円では金利はつきません。そのままにしてももったいないという側面はあります。
しかしことこの契約はあくまで贈与が目的であって増やすことではありません。わざわざ費用と支払ってまで増えるかどうかわからない仕組みにする必要性があるとは思えないのです。もちろんそれでも良いから増やして残す期待ができる仕組みを整えたいとおっしゃる方であれば良いのですが、大半はそうではないでしょう。
別の商品でも代用できるのではないか?
例えば信託銀行には暦年贈与信託というサービスがあります。こちらも信託銀行によっての違いはありますが日本円や海外の通貨で受け渡しは可能です。完全ではないですが税務署からイチャモンつけられる可能性を抑えられる贈与の仕組みを整えられます。
こちらであれば円建てで手間はかかりますが大した費用なく暦年贈与を行うことも可能です。「やさしさ、つなぐ」でも円建てでの契約ができますが、最低でも5回或いは10回分のお金を保険に残さなければいけませんし、利率は定期預金レベルです。契約する合理性はそれこそありません。
まとめ
暦年贈与を行うための保険、というコンセプトは悪くありません。高齢者が相対的に多い銀行ならではの金融商品とも言えると思いますが、如何せん扱い方が難しい保険です。契約した保険金は全て家族に渡したいとなれば利率は大きく低下し、利率を上げるためにはある程度の保険金は残しておかなければいけません。
残すとなればそのお金は最終的には死亡保険金になってしまいます。死亡保険はもう良いよという人が多いでしょうから、この選択は実に嫌らしいです。どちらにせよ保険会社に都合の良い設定になっていると言わざるを得ません。
また、基本的に銀行員は円建てでは勧めてきません。利率的に魅力が皆無だということもありますが何よりも手数料が全然入ってこないのです。
ターゲットとする顧客層にマッチしやすいテーマであるので、これについては良いと思いますが、細かく見ていけばこれでなくとも十分活用できる商品は他にもあります。利率はアホみたいに低いのに為替手数料は往復で1%くらいかかる計算になります。
契約を検討している方は、今一度この保険で本当に良いのか改めて冷静に考えてみることをお勧めします。
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